相互に混じり合う性質を持つフェルスパー

フェルスパーはムーンストーンやラブラドライトなどの本体を構成している重要な鉱物です。フェルスパーの和名(日本名)は長石です。フェルスパーはクォーツ(石英)と共に大地を構成する主要な鉱物です。
フェルスパーはいくつかの種類があり、まとめてフェルスパー・グループと呼ばれています。宝石に深く関係するフェルスパーは3種類です。ひとつはオーソクレース(正長石、カリウム長石)、そしてアルバイト(曹長石、ナトリウム長石)とアノーサイト(灰長石、カルシウム長石)です。
これらの3種類のフェルスパーは相互に混じり合う性質を持っています。オーソクレースとアルバイトが混じり合って、アルカリ・フェルスパーを形成します。アルバイトとアノーサイトが混じり合って、プラジオクレースを形成します。ただし、アノーサイトとオーソクレースは混じり合いません。
混じり合う前の独立した3種類はそれぞれ端成分と呼ばれています。ムーンストーンは端成分であるオーソクレースとアルバイトで構成されています。また、ラブラドライトは端成分であるアルバイトとアノーサイトで構成されています。

各端成分の原石は宝石にならない

端成分であるオーソクレースやアルバイト、アノーサイトの各原石の形について、良く成長した結晶ではいずれも平板状の多角形です。右の写真の上からオーソクレース(写真出所:geology-com)、アルバイト(写真出所:wikipedia)、アノーサイト(写真出所:minerals.net)です。端成分の各原石写真を示していますが、実際には純粋な端成分はほとんど見られず、わずかに他の端成分を含んでいると言われています。
端成分の各原石をカットして、宝石として流通することは余りありません。コレクター用として出回る程度です。
カット・スタイルはほとんどオーバル・ミックス・カットです。
フェルスパーの形を考えるとき、各端成分が混合したムーンストーンやラブラドライトという宝石の内部構造(形)に最も注目することがあります。
ムーンストーンやラブラドライトは独特の外観(干渉色に原因する外観)を持っています。
この独特の外観は端成分が相互に混じり合い、極めて薄い層が交互に積層していることによります。

フェルスパーが美しい宝石になる理由

オーソクレース(正長石)とアルバイト(曹長石)、アノーサイト(灰長石)とアルバイトは高温状態で混じり合い、冷却過程で分離して各端成分が極薄い層を形成し、そして固化します。

各端成分が交互に積層した状態を模式化した図を下に示しています。図の上部はムーンストーンまたはラブラドライトの断面を示しています。
長方形部は断面の一部を示し、下図は拡大したときに見られる薄い層が交互に重なり合った状態を示しています。例えば、ムーンストーンでは白色薄層部がオーソクレースで、灰色薄層部がアルバイトとなります。
ラブラドライトでは白色薄層部がアノーサイトで、灰色薄層部がアルバイトとなります。
各端成分はお互いに少し異なる組成を持っています。組成が異なると、わずかに屈折率も異なります。異なる屈折率を持つ薄層の物質が接していると、光の干渉が起こります。光が干渉すると、虹色が見られます。

光の干渉による虹色の身近な例はシャボン玉です。シャボン玉は極薄い膜の水(石鹸水)と空気が接しています。この薄い水の膜に光が入射すると、干渉現象が起こり、美しい虹色が見られます。
ムーンストーンでは薄層のオーソクレースとアルバイトが接しており、光が当たると干渉現象が起こり、乳白色や淡い青色の干渉色が見られます。同様にラブラドライトでも異なる組成の2つの薄層が接していることで干渉色が見られることになります。
ムーンストーンもラブラドライトも本体はフェルスパー(長石)で構成されています。ムーンストーンではオーソクレースとアルバイトと呼ばれている2種類のフェルスパーで構成されています。
ラブラドライトではアノーサイトとアルバイトと呼ばれている2種類のフェルスパーで構成されています。
これらのフェルスパーは高温で混じり合い、冷却過程で薄層を形成しながら交互に重なり合うという珍しい状態になります。このような状態は「ラメラ構造」と呼ばれています。
ラメラ構造の層が薄い場合、光の干渉で発色します。ムーンストーンやラブラドライトに見られる独特な色は干渉色です。両石は数ある宝石の中でも特異な発色をしていると言えます。
干渉色による美しい宝石の例は他にもあります。それは真珠です。真珠の表面は真珠層でおおわれています。真珠層を詳しく見ると、極薄いアラゴナイトと呼ばれている結晶とコンキオリンと呼ばれているタンパク質で構成されています。異なる2つの薄層で光が干渉して、真珠の美しい干渉色が生まれます。
ムーンストーンもラブラドライトも2種類の異なるフェルスパー(長石)がラメラ構造(互層の形)を形成しています。このラメラ構造によって特異な美しい外観が生まれています。

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