多くの人はリングやペンダント・トップの赤い石を見てルビーと判断します。しかし、合成ルビーが大量に出回っていますので、油断はできません。天然ルビーと合成ルビーの識別は、一目では判りません。ルビーに関係する用語の中で、合成という用語は重要なひとつです。合成の定義の一部分に、合成は天然と組成が同じという文言が必ず含まれています。同じものですから、合成ルビーと天然ルビーを簡単には識別できないことが読み取れます。

合成ルビー

合成石とは、天然石と同じ組成(ある石を形造っている元素の成分割合)を持ち、人の手によって造られたものを意味します。ですから、外観の特徴は全く同じに見えます。
色も輝きも同じように見えます。さらに硬さも同じです。宝石を専門的に習ってない人にとっては、天然ルビーと合成ルビーを識別することは難しいです。
現在、ほとんどの合成ルビーはベルヌーイ法と呼ばれる方法で製造されています。この方法は、1903年、フランスの科学者・ベルヌーイによって開発されました。
この方法によって合成ルビーは比較的簡単に安価なコストで製造できます。中国や世界の数ヶ国で大量に製造されています。
合成ルビーの最大の特長は、透明度が高く、色が鮮明で美しいです。そして大きなサイズをそろえることが可能なことです。
合成ルビーの透明度が高いことは、その石の内部にインクルージョン(内包物、異物)がない、または極めて少ないことが挙げられます。天然ルビーはほとんどインクルージョンを持っています。
ですから、合成ルビーと天然ルビーを識別する場合、インクルージョンを10倍のルーペで観察することでほぼ判ります。インクルージョンが見られない場合は合成ルビーの可能性が高いです。逆にインクルージョンが比較的たくさん見られた場合は天然ルビーの可能性が極めて高いです。

ピジョン・ブラッド

ルビーの色について話すとき、ルビーの最高の色はピジョン・ブラッドです、という会話が交わされます。古くから宝石に関係する多くの人に受け継がれてきた用語です。
ピジョンは鳩です。ブラッドは血です。ですからピジョン・ブラッドは鳩の血ということになります。鳩の鮮血の色がルビーの最高の色と言われて来ました。
鳩は日常的に身近で見られる鳥です。身近な鳥ですが、鳩の血をじっくり観察した人などほとんどいないと思います。鳩の血の色は想像するしかありません。
ピジョン・ブラットを示す天然ルビーとしてミャンマー産が広く知られています。特にミャンマーのモゴク(またはモゴック、Mogok)鉱山から産出する天然ルビーにピジョン・ブラッドが多く見られると言われています。
ピジョン・ブラッドの色は、オレンジ色やピンク色、黒色味を帯びてなく、鮮やかな濃い赤色を言います。

二色性

リングやペンダント・トップのルビーを観察しても、一色の赤色しか見えません。しかし、ルビーを側面(ガードル部:カットされたルビーの最大径の個所)から観察すると、紫赤色と橙赤色の二色が見られます。これをルビーの二色性と言います。
二色性とは、宝石を違った方向から観察したとき、違った色が見られる現象を言います。カット(切断、研磨)された宝石の二色性を実際に観察には、その石の側面部(ガードル部)から観察すると、うまく二色を見ることができます。
ルビーの場合、クラウン部(ガードルから上の個所)またはパビリオン部(ガードルから下の個所)に紫赤色と橙赤色の二色を観察することができます。
赤色系の他の石、例えばルベライト(レッド・トルマリン)やレッド・スピネル、アルマンディン・ガーネットなどでは、紫赤色と橙赤色の二色を示すことはありません。
紫赤色と橙赤色の二色性を示した場合、観察しているその石はルビーです。ただし、二色性だけの情報では、天然ルビーと合成ルビーの識別はできません。

モース硬度9

宝石の硬さを表す尺度のひとつにモース硬度があります。これはドイツの鉱物学者・モースが提唱したもので、宝石業界で広く使われています。宝石を購入される消費者の方が、店頭で宝石の硬さを意識することはほぼありません。

しかし、宝石を日常使いして、長く美しさを楽しむ場合は宝石の硬さが重要な役割を果たします。硬さは耐久性に直結しています。一般に充分な耐久性があると考えられている宝石はモース硬度7以上です。ルビーのモース硬度は9です。ですから、ルビーは長期にわたる使用にも耐える宝石といえます。
モースは標準となる10種類の石を挙げました。そしてこれらの10種類の石を順位付けました。最も軟らかい石としてタルクを挙げ、この石を硬度1としました。また最も硬い石としてダイヤモンドを挙げ、硬度10としました。その他、硬度2から硬度9まで右表のような石をあてました。右表の硬度9にコランダムがあります。コランダムとはルビーとサファイアの両方を意味しています。赤色のコランダムをルビーと言います。赤色以外のコランダムをサファイアと言います。

アステリズム

宝石の専門用語です。日本語では星彩効果と呼ばれています。一部のルビーに見られるスター効果のことです。多くの人にとってはスター効果という用語の方が通じます。
アステリズムは、ルビーをカボッション・カット(丸く山形のような形状にしたカット)にしたときに現れる6本の光条(白く光る線または帯)を言います。星のきらめきに似ていることからこのように呼ばれています。
一部のルビーはなぜアステリズムを示すのでしょうか? それはルチルという細い針状の結晶が3方向に平行に多数分布しているからです。ルチルがこのような分布をしているルビーをカボッション・カットにすると、6本の光条が現れます。ルビーが示す不思議な現象のひとつです。

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