ムーンストーン・ラブラドライトの特徴と魅力を【プロが徹底解析】

神秘的な光の輝きで人々を魅了するムーンストーンとラブラドライト。月の光のような柔らかい輝きを放つムーンストーンと、オーロラのような多彩な光を見せるラブラドライトは、どちらも特別な光学現象を持つ美しい宝石です。

これらの宝石の美しさの秘密は、「フェルスパー(長石)」という鉱物グループにあります。本記事では、ムーンストーンとラブラドライトの基礎となるフェルスパーの仕組みから、それぞれが見せる特異な光学現象の原理、さらには科学的な鑑別方法まで、専門的な視点で詳しく解説します。人工的には再現できない自然の神秘を理解し、これらの宝石の真の価値を知ってください。

この記事で分かること
  • ムーンストーンとラブラドライトの基礎となる3種のフェルスパー
  • アデュラレッセンスとラブラドレッセンスの光学現象
  • 人工的に作ることができない特殊な輝き
  • 屈折率による科学的な鑑別方法

美しい輝きを生む3種のフェルスパー

ムーンストーンやラブラドライトについて詳しく調べると、必ず「フェルスパー(長石)」という用語が出てきます。フェルスパーは両石の本体を構成する重要な鉱物で、これを理解することで特異な光学的特性の背景を知ることにつながります。

フェルスパーは約20種類あるとされ、まとめて「フェルスパー・グループ」と呼ばれています。この中でムーンストーンやラブラドライトに深く関わるフェルスパーは以下の3種類です:

フェルスパーの種類別名主成分形成する宝石
オーソクレース正長石、カリウム長石カリウムムーンストーン(主成分)
アルバイト曹長石、ナトリウム長石ナトリウムムーンストーン・ラブラドライト
アノーサイト灰長石、カルシウム長石カルシウムラブラドライト(主成分)

これらの3種類は高温でお互いに混じり合う性質を持っています。主にオーソクレースとアルバイトが混合してムーンストーンが形成され、主にアノーサイトとアルバイトが混合してラブラドライトが形成されます

これらの3種類が混じり合う前の状態は「端成分」と呼ばれています。端成分は混じり合う前の純粋な成分の状態ですが、現実的には完全に純粋な端成分はほとんど存在せず、わずかに他の端成分を含んでいると言われています。

この章のポイント
3種のフェルスパーの混合でムーンストーンとラブラドライトが形成される

端成分の鑑別と屈折率の重要性

3種類の端成分について、宝石としてカットされるのは主にオーソクレースです。時にアルバイトもカットされることがありますが、アノーサイトが宝石としてカットされることはありません。ただし、オーソクレースもアルバイトも一般的な宝石というよりもコレクター・ストーンとして扱われています。

オーソクレースやアルバイトの鑑別について、肉眼やルーペでは判別しにくいのが現実です。しかし、宝石鑑別器具として知られている「屈折計」を使用すると正確に判別できます。

無色や淡黄色、淡青色のオーソクレースのルースに対する模造石としてガラスが挙げられます。オーソクレースの屈折率は他の端成分の混合割合で1.51から1.54まで変動しますが、複屈折量は0.005で一定しています。一方、ガラスの複屈折量はゼロですから、この特性でオーソクレースとガラスを識別することができます。

鉱物屈折率複屈折量識別ポイント
オーソクレース1.51~1.540.005(一定)複屈折量の存在
アルバイト1.54~1.550.009複屈折量の存在
ガラス(模造石)変動0(ゼロ)複屈折量なし

アルバイトのルースに対しても、模造石としてガラスが挙げられます。アルバイトの屈折率は1.54から1.55まで変動し、複屈折量は0.009です。この複屈折量の有無でガラスと識別できます。

フェルスパー・グループの端成分単体では宝石としての魅力は乏しいですが、これらの端成分が絶妙なバランスで混合することで、魅力的なムーンストーンやラブラドライトなどが生まれるのです。

この章のポイント
屈折計による複屈折量の測定で正確な鑑別が可能

人工では再現不可能な神秘の輝き

ムーンストーンとラブラドライトは、宝石の中でも特に珍しい光学的特性を示します。ムーンストーンは「アデュラレッセンス」(乳白色などを示す干渉現象)、ラブラドライトは「ラブラドレッセンス」(青緑色などを示す干渉現象)と呼ばれる特異な光学現象を示します。

このような現象を人為的に造り出すことはきわめて困難です。そのため、市場には両石の合成石は出現していません。これは自然が作り出す奇跡的なバランスの賜物と言えるでしょう。

ムーンストーンについて、外観が似ている天然石としてコモン・オパール(斑が見られない乳白色のオパール)やホワイト・カルセドニーが挙げられます。模造石としては、本体に無数の微細な泡を含ませたガラスやフッ化カルシウムの微細結晶を生じさせたガラスが挙げられます。

ラブラドライトについては、外観が似ている天然石はありません。模造石としては緑青色または青緑色に彩色した陶磁器が想定されますが、実際に市場に模造石は現れていません。天然産のラブラドライトの価格が比較的安価であることから、模造石の生産はビジネス的に不適と思われます。

ムーンストーンやラブラドライトの鑑別に関して、外観の光学的な特性(アデュラレッセンスやラブラドレッセンス)を観察することで肉眼でも判定できます。少し宝石を取り扱った経験があれば、肉眼で両石の石名を当てることは難しくありません。

この章のポイント
特殊な光学現象は人工的に再現できない自然の奇跡

科学的鑑別は屈折率が決め手

両石を肉眼で判定できるとしても、科学的に鑑別することが必要な場合もあります。科学的なアプローチの一つとして屈折計の利用が挙げられます。

すべての物質は固有な屈折率を持っています。ムーンストーンとラブラドライトも固有な屈折率を持っていますから、屈折率を測定することで鑑別が可能です。

両石の屈折率の数値を見ると、小数点第2位で違いがありますので識別が可能です。ルースの場合では比重も測定できますから、比重の数値が得られれば、より正確に識別できます。

ムーンストーンにおいて、美しい青色の石が市場に出回っています。「ブルー・ムーンストーン」や「ロイヤルブルー・ムーンストーン」という呼称で出回っていますが、ムーンストーンと称されていても、実際にはペリステライトやラブラドライトの可能性が高いです。

宝石の屈折率と比重の比較表
各宝石の屈折率と比重の比較

ムーンストーンとペリステライト、ラブラドライトは化学組成が異なりますので、厳密には違う鉱物、宝石ということになります。正確に表示するなら、ペリステライトやラブラドライトにムーンストーンという名前を連結させることは避ける必要があります。

フェルスパー・グループの3つの端成分(オーソクレース、アルバイト、アノーサイト)の混合割合で物理的特性(屈折率、比重など)が変化します。ムーンストーンと外観が似ている他の石(ペリステライトなど)との鑑別は、物理的特性を測定することで正確に可能となります

この章のポイント
屈折率と比重の測定で正確な石種鑑別が可能

まとめ

ムーンストーンとラブラドライトの美しさの秘密は、フェルスパー・グループの絶妙な混合にあります。オーソクレース、アルバイト、アノーサイトという3種の端成分が自然の中で長い年月をかけて混じり合うことで、これらの神秘的な宝石が誕生するのです。

アデュラレッセンスやラブラドレッセンスといった特殊な光学現象は、人工的には再現できない自然の奇跡です。この希少性こそが、これらの宝石の価値を高めている理由の一つでもあります。

科学的な鑑別においては、屈折率と比重の測定が重要な役割を果たします。特に市場に出回る類似石との区別において、これらの物理的特性の理解は不可欠です。月の光のような優しい輝きのムーンストーン、オーロラのような幻想的な光を放つラブラドライト。自然が生み出した奇跡の輝きを、ぜひあなたの手で感じてみてください。

この記事のまとめ
  • 3種のフェルスパーの混合で特殊な宝石が形成される
  • 複屈折量の測定で正確な鑑別が可能
  • 特殊な光学現象は人工的に再現不可能
  • 屈折率と比重による科学的鑑別が重要
  • 類似石との正確な区別が必要
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