輝きを生む3種のフェルスパー

ムーンストーンやラブラドライトについて、書籍を調べて深堀すると、またネットで広範囲の検索をかけると、必ずフェルスパー(長石)という単語(用語)が出て来ます。
フェルスパーはムーンストーンやラブラドライトの本体を構成しており、フェルスパーを知ることで、両石が示す特異な光学的特性の背景を知ることにつながります。
フェルスパーは20種類ほどあるとされています。まとめてフェルスパー・グループと呼ばれています。この中でムーンストーンやラブラドライトなどに深く関わるフェルスパーは3種類です。
その3種類は、オーソクレース(正長石、カリウム長石)とアルバイト(曹長石、ナトリウム長石)とアノーサイト(灰長石、カルシウム長石)です。
これらの3種類は高温でお互いに混じり合う性質を持っています。主にオーソクレースとアルバイトが混合してムーンストーンが形成されます。主にアノーサイトとアルバイトが混合してラブラドライトが形成されます。
これらの3種類が混じり合う前の状態は端成分と呼ばれています。端成分は混じり合う前の純粋な成分の状態です。現実的には純粋な端成分はほとんど無く、わずかに他の端成分を含んでいると言われています。

オーソクレースとアルバイトをガラスと見分ける

3種類の端成分について、宝石としてカットされるのは主にオーソクレースです。ときにアルバイトもカットされることもあります。アノーサイトは宝石としてカットされることはないです。オーソクレースもアルバイトも宝石というよりもコレクター・ストーンです。
オーソクレースやアルバイトの鑑別について、肉眼やルーペでは判別しにくいです。宝石鑑別器具として知られている「屈折計」を使用すると判別できます。
無色や淡黄色、淡青色のオーソクレースのルースに対する模造石としてガラスが挙げられます。オーソクレースの屈折率は他の端成分の混合割合で変動します。1.51から1.54まで変動しますが、複屈折量は0.005で一定しています。一方、ガラスの複屈折量はゼロですから、オーソクレースとガラスを識別することができます。
また、アルバイトのルースに対する模造石としてガラスが挙げられます。アルバイトの屈折率は1.54から1.55まで変動します。複屈折量は0.009です。この複屈折量の有無でガラスと識別できます。
フェルスパー・グループの中の端成分であるオーソクレースやアルバイトやアノーサイトは宝石としての魅力は乏しいですが、これらの端成分が混合すると魅力的なムーンストーンやラブラドライトなどが生まれます。

ムーンストーンとラブラドライトの輝きは人為的に作れない

両石(ムーンストーンとラブラドライト)は宝石の中でも珍しい光学的特性を示します。ムーンストーンはアデュラレッセンス(乳白色などを示す干渉現象)、ラブラドライトはラブラドレッセンス(青緑色などを示す干渉現象)と呼ばれる特異な光学現象を示します。
このような現象を人為的に造り出すことはきわめて困難です。ですから、市場には両石の合成石は出現していません。
ムーンストーンについて、外観が似ている天然石としてコモン・オパール(斑が見られない乳白色のオパール)やホワイト・カルセドニーが挙げられます。模造石として本体に無数の微細な泡を含ませたガラスやフッ化カルシウムの微細結晶を生じさせたガラスが挙げられます。
ラブラドライトについて、外観が似ている天然石はありません。模造石としては緑青色または青緑色に彩色した陶磁器が想定されます。しかし、市場に模造石は現れていません。天然産のラブラドライトの価格が比較的安価ですから、模造石の生産はビジネス的に不適と思われます。
ムーンストーンやラブラドライトの鑑別に関して、外観の光学的な特性(アデュラレッセンスやラブラドレッセンス)を観察することで肉眼でも判定できます、と記載している宝石専門書もあります。少し宝石を取り扱った経験があれば、肉眼で両石の石名を当てることは難しくないと思います。

科学的根拠は屈折率で

両石を肉眼で判定できるとしても、科学的に鑑別することが必要な場合もあります。科学的なアプローチのひとつとして屈折計の利用が挙げられます。
すべての物質は固有な屈折率を持っています。両石も固有な屈折率を持っていますから、屈折率を測定することで鑑別が可能です。下の表は両石の屈折率と関連する石の屈折率を示したものです。さらに比重の数値も載せています。

両石の屈折率の数値を見ますと、小数点第2位で違いがありますので識別が可能です。ルースの場合では比重も測定できますから、比重の数値が得られれば、より正確 に識別できます。

ムーンストーンにおいて、美しい青色の石が市場に出回っています。ブルー・ムーンストーンやロイヤルブルー・ムーンストーンという呼称で出回っています。ムーンストーンと称されていますが、実際にはペリステライトやラブラドライトの可能性が高いです。
ムーンストーンとペリステライト、ラブラドライトは化学組成が異なりますので、違う鉱物、宝石ということになります。
厳密に正確に表示するなら、ペリステライトやラブラドライトにムーンストーンという名前を連結させることは避ける必要があります。
フェルスパー・グループの3つの端成分(オーソクレース、アルバイト、アノーサイト)の混合割合で物理的特性(屈折率、比重など)が変化します。ムーンストーンと外観が似ている他の石(ペリステライトなど)との鑑別は、物理的特性を測定することで可能となります。

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