クリソベリルの3つのタイプ

クリソベリルという名前は、一般の方にとって馴染みが薄いと思われます。宝石に関心がある方の間で少し知られている程度です。
一方、キャッツ・アイとアレキサンドライトの名前は多くの方が知っています。この両宝石とも本体がクリソベリルで構成されていることはあまり知られていません。
クリソベリルは3つのタイプに分けられます。
一つ目はキャッツ・アイです。宝石業界でキャッツ・アイといえば、クリソベリル・キャッツ・アイを意味しています。
二つ目はアレキサンドライトです。光源を変えてこの宝石に光を当てると、例えば太陽光から豆球ペンライトに変えると、本体の色が変わります。この現象は「変色性」または「カラー・チェンジ」と呼ばれています。
三つ目はキャッツ・アイとアレキサンドライト以外のクリソベリルです。一般に単にクリソベリルと呼ばれています。淡緑黄色のクリソベリルは、18世紀半ばから19世紀初めにヨーロッパで人気がありました。

では、クリソベリルの定義とは

ここで、クリソベリルとは何かを深堀します。本質を知るには、化学組成を知ることが近道です。そして、クリソベリルとキャッツ・アイの関係、クリソベリルとアレキサンドライトの関係に迫ります。三層特性図を参考にしながら迫ります。三層特性図とは本質特性、固有特性、表面特性で構成されている図のことです。

右図はクリソベリルの三層特性図です。本質特性の中に成分があります。成分の中にベリリウム(Be)元素があります。数ある宝石の中でベリリウムを含む宝石は比較的珍しいです。
クリソベリルはベリリウムとアルミニウム(Al)と酸素(O)で構成されています。
この構成によって高硬度(モース硬度8.5)と中程度の屈折率(1.74~1.75)が生じます。

固有特性の中には、高硬度と中程度屈折率の他に一方向針状インクルージョンという項目があります。この項目がクリソベリル・キャッツ・アイを生じさせます。
キャッツ・アイは一方向に並んだ針状のインクルージョンがたくさん存在するとき、カボッション・カットを施すと発現します。
インクルージョンが一方向でなく、二方向や三方向に分布していると、スターが発現します。例えばルビーやサファイアにおいては、インクルージョンが三方向に分布しているので、カボッション・カットを施すと、キャッツ・アイではなくスターが現れます。
インクルージョンが一方向または複数方向に分布する原因は、宝石の本体、組成、構造によると推測されます。
キャッツ・アイに見られる白く光る光の帯(光条)は、針状インクルージョンの大きさ、分布密度に影響されます。細く密に分布していると、シャープできれいな光条が現れます。また、光条は光源にも影響されます。部屋の中に複数の光源、例えば天井にいくつもの蛍光灯がある場合です。複数の光源の下では光条はぼんやりします。単光源で強い光の光源の下では光条はシャープになります。

変色性の要因となるクロムの性質

固有特性の中にクロム含有という項目があります。クリソベリルの本体が微量のクロム元素を含むと、赤色系の光と青色系の光がバランスを保って透過するようになります。
この状態のクリソベリルに太陽光(青色系が強い光)が当たると、青色系の光が優位となり、クリソベリルの色は緑色に発色します。
逆に白熱光(赤色系が強い光)が当たると、赤色系の光が優位となり、クリソベリルの色は紫赤色に発色します。この現象は変色性(カラー・チェンジ)と呼ばれています。
この変色性を持つクリソベリルがアレキサンドライトです。クリソベリル・キャッツ・アイと同様にアレキサンドライトも希少宝石であり、高価格で取引されています。
さらにキャッツ・アイと変色性を併せ持つクリソベリルも発見されています。この宝石はキャッツ・アイ・アレキサンドライトまたはアレキサンドライト・キャッツ・アイと呼ばれています。
固有特性の中に鉄含有という項目があります。本体が鉄元素を含むと、クリソベリルは緑黄色から黄色に発色します。この色のクリソベリルは、18世紀から19世紀にかけてヨーロッパで人気がありました。クリソベリルの屈折率は比較的大きく、研磨後のテリ(輝き)も良好で、硬度は高くて耐久性があります。
キャッツ・アイとアレキサンドライトを除くクリソベリルも宝石の条件(美しさ、硬さ、希少性)を備えており、知名度が上がれば、市場でもっと流通すると思われます。
クリソベリルの本質は、ベリリウム(Be)元素とアルミニウム(Al)元素と酸素(O)元素で構成されていることです。比較的単純です。しかし、ベリリウムを含むことは珍しいといえます。ベリリウムを含む宝石は限られています。
ベリリウムを含む宝石として他にベリルが挙げられます。このベリルはエメラルドやアクアマリンなどの本体を構成しています。無色透明なベリルにクロム(Cr)元素が微量に混入すると、緑色のエメラルドになります。微量の鉄(Fe)元素が混入すると、アクアマリンになります。
クリソベリルはベリルと共にベリリウム元素で構成されている数少ない宝石です。クリソベリルはキャッツ・アイやアレキサンドライトを生み出し、ベリルはエメラルドやアクアマリンを生み出しています。
キャッツ・アイもアレキサンドライトも本体は同じクリソベリルでできています。そのクリソベリルは、珍しいベリリウム元素で構成されています。本質特性である組成に注目すると、クリソベリルは宝石の中でも稀少性に富んでいると言えます。

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