半透明なヒスイはオーバル・カボッションが最適
ヒスイのルース(貴金属にセッティングされてないカットされた状態の石)の形は、ほとんどがオーバル・カボッション(楕円で山形状)です。この理由はヒスイが半透明な色石であるためです。
代表的なカット・スタイルとしてカボッション・カットの他にブリリアント・カットやステップ・カットがあります。
ヒスイにブリリアント・カットを施しても輝きやファイアが増大することはありません。内部からの反射は期待できません。無理なことです。ですから、ヒスイにブリリアント・カットは適用されません。
ヒスイにステップ・カットを施すこともほとんどありません。時にアイス・ジェダイト(白っぽい透明なヒスイ)にステップ・カットが適用されます。
このようにヒスイの外形は楕円と山形の組み合わせであるオーバル・カボッション・カットで占められています。
粒が密に詰まった状態を表しています。高い圧力と高い温度の下で、緻密な粒状集合体が形成されています。
小さな粒の集まりですから、光がヒスイに入射すると、個々の粒の境界(粒界)で光が乱反射されて奥まで充分に透過しません。光は部分的に透過するだけです。
その結果、ヒスイは半透明の柔らかい雰囲気の外観を示すようになります。
不均質な粒状組織だからヒスイは衝撃に強い
ヒスイは強靱な特性を持つことで知られています。反対に脆性な特性を持つ素材としてガラスが挙げられます。前者は衝撃に対して強い耐性を持っています。後者は打撃に弱いです。
ヒスイのモース硬度は7です。日常使用によるスリ傷には一応耐える硬度を持っています。ガラス(窓ガラス)のモース硬度は5.5ですから耐スリ傷性は低いです。
両者間にモース硬度の違いはあっても、両者の耐衝撃性は余りにも異なります。とにかく、ヒスイは叩いても投げても容易に壊れません。衝撃に強いです。
衝撃に強いヒスイ、衝撃に弱いガラス。両者に違いが生じる原因は内部の組織にあります。ヒスイは粒状組織です。ガラスは均質、一様な組織(状態)です。
もし、ヒスイが強い衝撃、打撃を受けると、一つや二つの粒が破壊されるかもしれません。しかし他の粒まで破壊が伝播しないと推測されます。破壊が全体に及ぶことはないと思われます。同時に粒状組織のために粒界が衝撃を和らげる働きをしているものと推測されます。
他方、ガラスは均質組織ですから衝撃を受けると、表面に小さな傷が発生し、一気に全体に伝播する性質を持っています。伝播して破損に至ります。
ヒスイが容易に破損に至らない理由は、粒状組織に原因しています。
粒状組織がゆえに、様々な発色や、染色も可能
ヒスイの内部の形、粒状組織はヒスイの色にも多大な影響を及ぼしています。緑色のヒスイは粒自身がクロム元素によって発色しています。
しかし、赤色や黄色、橙色、茶色、黒色などは粒と粒の境界に入り込んだ鉄元素、酸化鉄や炭素に原因しています。
ヒスイは粒状組織ですから粒界に染色剤を入り込ませることも可能です。薄い色のヒスイを濃い緑に染色させたものが市場にたくさん流通しています。
この染色ヒスイをルーペ(10倍)で観察すると検知できることもあります。石の裏側から強い光のペンライトを当てて、粒界を観察します。すると、粒界に色溜まり、色のムラが見られることがあります。このような場合は染色処理されたヒスイです。
染色が疑われるヒスイでも色溜まりが見られない場合もあります。この場合は専門機関が保有しているFTIR装置を使って、特定の波長をとらえることで看破が可能です。
古くからヒスイに間違われてきた石があります。ネフライトと呼ばれている石です。先代、先々代から受け継がれたヒスイもネフライトであることが多々あります。
ヒスイとネフライトの内部の形(組織)は異なります。ヒスイは粒状組織ですが、ネフライトは繊維状組織です。
ネフライトも高い靱性(粘り強さ)を持つ石です。彫刻に向いている石です。高い靱性は繊維状組織に原因しています。繊維状組織は衝撃を受けても破壊が内部に伝播しない性質を持っています。
ヒスイとネフライトは内部の形(組織)が異なりますから、ルーペ(10倍)を使用して内部を観察することで識別が可能です。
石の裏側から強い光のペンライトを当てて、内部を注意深く観察します。光が透過しにくい場合は、石の周囲の薄い個所を観察します。
粒の集合が見られたらヒスイです。長い繊維の集合が見られたらネフライトです。外観の色について、一般にネフライトは暗い緑色、黒っぽい緑色です。
中国でつくられた精巧な彫刻品の素材はネフライトが多いです。中国でヒスイは産出しないと言われています。ヒスイはミャンマーから輸入していたと思われます。
ヒスイの特徴として半透明と高い靱性が挙げられます。この特徴はヒスイの内部の形(組織)に起因しています。粒状組織ですから光は散乱され、半透明となります。
そして粒状組織ですから破壊の伝播が起きにくく、かつ衝撃を吸収する役目を果たします。
ヒスイは日常的に使用していても欠けや破損が生じにくい特性を持っています。ですから、親子代々に受け継がれても外観が損なわれることはほとんどありません。