宝石の価値を示すひとつ条件「硬さ」

宝石の世界、鉱物の世界そして医学などの世界において、硬さを表す尺度(目安)にモース硬度が使われています。医学の中の歯科でもモース硬度が使われています。
人体の中で最も硬い部位は歯です。歯の一番外側はエナメル質と呼ばれ、半透明の物質でできています。この物質のモース硬度は7です。かなりの硬さです。エナメル質の内側である象牙質のモース硬度は5です。
宝石の世界では、モース硬度7以上が望ましいと言われています。しかし、モース硬度7未満の宝石も数々あります。

鉱物学者により考案された硬度計

このモース硬度を考案したのは、フリードリッヒ・モース(Friedrich Mohs)です。ドイツ生まれの鉱物学者、地質学者です。1773年に生まれました。

彼が28歳のとき、オーストリアで鉱物関係の職を得ました。オーストリアの銀行家が収集していた厖大(ぼうだい)な鉱物試料について、仕分け業務(名前を特定して分類する業務)をする仕事でした。
当時のヨーロッパでは、裕福な貴族や実業家などの間で鉱物を収集することが流行していました。モースを雇った銀行家もその一人でした。

毎日、仕分け作業をしていたモースは、あることに気付きました。個々の鉱物によって硬さに違いがあることに気付きました。ある鉱物で他の鉱物の表面をスクラッチ(擦ること)すると、傷が付いたり、傷が付かなかったりする事実を体験しました。
多くのスクラッチ試験を行い、長い年月を費やして、1812年、彼が39歳のとき、モースの硬度計を発表しました。最も軟らかい鉱物である滑石(タルク)をモース硬度1とし、最も硬い鉱物であるダイヤモンドをモース硬度10としました。1から10の間に石英(クォーツ)などの鉱物を8種類充てました。

硬さは宝石の耐久性にもつながる重要な尺度

宝石の三条件として、①美しさ、②希少性、③硬さ(硬度)が挙げられます。この三条件は世界の宝石関係者において共通の認識です。硬さは宝石の耐久性にほぼ直結しています。ダイヤモンドのモース硬度は10です。祖母、母、そして自身に受け継いだダイヤモンドの表面にスリ傷はほぼ発生しません。
無色透明のガラスのモース硬度は5.5です。かなり低い硬度です。祖母あるいは母から譲り受けたガラスのリング(指輪)を観察すると、テーブル面にはスリ傷がたくさん見られます。またファセット・ラインは欠けてギザギザになっています。
宝石の硬さを表す世界標準のモース硬度は、宝石の世界で大きな役割を果たしています。モース自身は、いくつかの大学の教授を歴任し、名声を得ました。そして1839年、66才の生涯を終えました。

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