キャッツ・アイを示す宝石は1種類ではない

宝石に見られる光の特殊効果のひとつに「キャッツ・アイ」が挙げられます。キャッツは猫、アイは目を意味していますから、キャッツ・アイは猫目効果とも言われています。
ある宝石をカボッション・カット(山形形状)にすると、1本の白い光の帯が現れることがあります。
この白い光の帯は「光条(こうじょう)」と呼ばれています。通常、カボッション・カットは楕円形で、その楕円形の中に光条が現れる状態は猫の目に似ていることからキャッツ・アイと言われています。
キャッツ・アイを示す宝石はいくつかの種類があります。宝石業界でキャッツ・アイと言えば、クリソベリルという宝石の種類を指します。しかし、より明確に他の種類のキャッツ・アイと区別する場合は、クリソベリル・キャッツ・アイと言うように宝石の種類を特定して、キャッツ・アイという呼び名の頭にクリソベリルを付けます。
ですから、キャッツ・アイを示すクォーツが手元にある場合、混同を避けるためにクォーツ・キャッツ・アイと表示されます。クリソベリル・キャッツ・アイと識別するためにキャッツ・アイの前(頭)にクォーツを付けます。

クリソベリル・キャッツ・アイを見極める

キャッツ・アイ・ストーンの鑑別において、クリソベリル・キャッツ・アイと他の種類のキャッツ・アイとの識別が課題となります。
先ずクリソベリル・キャッツ・アイの外観特徴を知っておく必要があります。クリソベリル・キャッツ・アイの光条は明瞭です。細い針状のインクルージョン(内包物、異物)が密に分布していることに起因しています。
本体(ボディ)の色は半透明で一般に黄緑色です。本体の色は蜂蜜黄色が最高と言われています。
クリソベリル・キャッツ・アイ以外のキャッツ・アイ・ストーンとして接する機会の多い石はクォーツ・キャッツ・アイです。この石の外観は本物のクリソベリル・キャッツ・アイによく似ています。
クォーツ・キャッツ・アイの本体は一般に灰色や黒灰色ですからクリソベリル・キャッツ・アイの本体と異なる色です。本体の色が異なることで鑑別(識別)が可能です。
それでも、より正確な鑑別を試みる場合は、少し専門的になりますが、宝石が持つ固有の特性を測定することです。

屈折率と比重に注目すると、両者の数値は右の表の通りです。両者の物理的な特性はかなりの差異がありますので、屈折計や重液を使用すれば、識別が可能です。キャッツ・アイ・ストーンが貴金属にセッティングされている場合、比重を測定することはできません。この場合は屈折率の測定のみとなります。キャッツ・アイ・ストーンがルース(貴金属にセッティングされてない切断、研磨された状態の石)の場合は屈折率も比重も測定することができます。

ここで少し重液のことに触れておきます。重液とは水の比重よりも重い液体のことです。
実際に使用される重液は数種類です。その中のひとつにブロモフォルム重液が挙げられます。この重液は比較的容易に入手可能です。
この重液の比重は2.9です。通常、この重液はガラス製の小さなびんに入れられています。クリソベリル・キャッツ・アイとクォーツ・キャッツ・アイのルースをこの重液の中に静かに落とすと、前者の石は沈んで、びんの底に落下します。一方、後者の石は重液の上に浮かんで沈みません。両石をはっきりと識別できます。
重液を使って宝石を識別する方法は重液法と呼ばれています。あるいは浮沈法とも言われています。宝石が浮くか、沈むかを観察する方法です。比較的簡単にルースや原石の種類を判定するのに便利です。宝石の比重と重液の比重がほぼ等しい場合は、その宝石は沈むこともなく、浮くこともなく、重液の中で懸垂された状態となります。

キャッツ・アイを見ることができる宝石たち

キャッツ・アイを示す宝石(石)は、クリソベリル・キャッツ・アイやクォーツ・キャッツ・アイの他にいくつかの種類があります。下の表は、宝石(石)の名前と主要な色を示しています。

最上段のネフライト・キャッツ・アイは暗緑色が一般的です。黒色の斑点を伴うことも多いです。
2番目のトルマリン・キャッツ・アイは二色性の強い石です。二色性とは方向を変えて、色を観察すると、異なる色が見られることです。光が透過しにくい場合はペンライトを当てて観察すると、見易くなります。
3番目のアパタイト・キャッツ・アイは黄色ですが、鮮やかな黄色ではありません。暗黄色です。
4番目のアクアマリン・キャッツ・アイは明瞭なキャッツ・アイでなく、ぼんやりしたキャッツ・アイが多いです。
5番目から11番目のキャッツ・アイは余り聞き慣れない種類の石です。外観の色だけで判別することは難しいです。専門的な器具を使う必要があります。例えば、屈折計などを使用して石の種類を絞り込む必要があります。さらには特殊な装置、蛍光X線分析装置なども併用する必要があります。

キャッツ・アイはある種類の石に見られる特殊な光の効果です。この効果の発現にはインクルージョンが深く関わっています。宝石業界でキャッツ・アイと言えば、クリソベリル・キャッツ・アイのことです。この石のインクルージョンは微細で大量に存在しています。結果として光条がはっきりしています。またボディ(本体)・カラーは蜂蜜黄色が最高の評価を受けています。光条と色相はクリソベリル・キャッツ・アイを鑑別するときの目安になります。しかし、多くのキャッツ・アイ・ストーンの中から石の種類を正確に割り出すには、屈折計による情報が欠かせません。

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