はじめに

手頃な価格で美しいオリーブグリーンの輝きが楽しめるペリドット。その人気ゆえに、市場には見た目がそっくりなガラスや他の宝石といった「類似石」が数多く出回っています。特に精巧に作られたグリーン・ガラスは、一見しただけではプロでも見分けるのが難しいほどです。では、どうすれば本物のペリドットを確実に見分けることができるのでしょうか?

その答えは、ペリドットが持つ「ダブリング」という特別な光学的性質に隠されています。

この記事では、宝石鑑別のプロが実践する、ペリドットと類似石を識別するための最も確実な方法を徹底解説します。ルーペで覗くと見える「ダブリング」とは何か、なぜそれが起こるのか、そしてその見え方の違いによって、どのようにしてグリーン・ガラスやグリーン・サファイアといった紛らわしい石たちと区別するのか。この知識を身につければ、あなたも賢い宝石選びができるようになります。

この記事で分かること
  • ペリドットと類似石(グリーン・ガラス、サファイア等)の見分け方
  • 鑑別の鍵となる「ダブリング」現象の観察方法
  • ダブリングの強さを決める「複屈折量」とは何か
  • ペリドットの合成石が市場にない理由

ペリドット鑑別の鍵!「ダブリング」を見破れ

ペリドットの人気に伴い、市場には様々な類似石が登場します。代表的なのは安価な「グリーン・ガラス(模造石)」ですが、他にも合成グリーン・サファイアや、天然のグリーン・ジルコン、グリーン・ガーネットなどもペリドットと混同されることがあります。これらの石と本物のペリドットを識別する上で、最も強力な武器となるのが「ダブリング」の観察です。

ダブリングとは、10倍のルーペで宝石の正面(テーブル面)から奥を覗いたときに、裏側のファセットの稜線が二重にブレて見える現象です。ペリドットはこのダブリングが非常に顕著に見られる宝石として知られています。

一方で、最も紛らわしい類似石であるグリーン・ガラスには、このダブリングが全く見られません。ガラスは光を2つに分ける性質(複屈折性)を持たないため、稜線は常に1本にすっきりと見えます。この一点を確認するだけで、ペリドットとグリーン・ガラスは誰でも簡単に見分けることができるのです。

ペリドットのダブリング現象の模式図
ペリドットに見えるダブリング

※ちなみに、ペリドットの合成石は実験室レベルでは作られていますが、天然石が比較的安価で豊富に産出するため、商業ベースでの生産は採算が合わず、市場には流通していません。

この章のポイント
ペリドット最大の特徴は稜線が二重に見える「ダブリング」。ガラスにはこの現象がないため、ルーペで観察すれば簡単に見分けられる。

なぜ見える?ダブリングの強さを決める「複屈折量」

ダブリングの見えやすさは、宝石が持つ「複屈折量」という数値によって決まります。複屈折量とは、宝石内部で光が2つに分かれた際の、2つの光線の屈折率の差のことです。この数値が大きいほど、ダブリングはよりはっきりと、二重の線が大きく離れて見えます。

右の表を見ると、ペリドットの複屈折量は「0.036」と非常に大きな値であることがわかります。これが、ペリドットのダブリングが明瞭に見える理由です。一方、グリーン・ガラスの複屈折量は「0」であり、ダブリングは起こりません。

では、他の類似石はどうでしょうか。例えば、グリーン・サファイアの複屈折量は「0.008」と非常に小さいため、ルーペでダブリングを捉えるのは困難です。ペリドットのはっきりとしたダブリングとは見え方が全く異なります。このように、ダブリングの「有無」だけでなく、その「見え方の強さ」も、宝石を識別する重要な手がかりとなるのです。

各種グリーン系宝石の複屈折量の比較表

ダブリングを観察する際は、石を色々な角度に傾けてみることが重要です。見る方向によって、ダブリングが最も強く見える「マジックアングル」が存在します。根気よく観察し、最もはっきりと二重線が見える方向を探すのがコツです。

この章のポイント
ダブリングの見え方は「複屈折量」で決まる。ペリドットはこの値が非常に大きく明瞭に見えるため、複屈折量が0のガラスや値が小さいサファイアと区別できる。

まとめ

ペリドットとその類似石を見分ける最も確実で簡単な方法は、10倍のルーペを使って「ダブリング」を確認することです。ペリドットが持つ大きな「複屈折量」は、その稜線をはっきりと二重に見せる特徴的な現象を生み出します。このダブリングは、複屈折性を持たないグリーン・ガラスには全く見られず、またグリーン・サファイアのような他の類似石とは見え方の強さが明らかに異なります。宝石の鑑別と聞くと難しく感じるかもしれませんが、この「ダブリング」というポイントさえ押さえれば、誰でもペリドットの真贋をかなりの精度で見抜くことが可能です。この知識は、あなたが価値ある一石を安心して手に入れるための、強力な味方となってくれるでしょう。

この記事のまとめ
  • ペリドットと類似石の鑑別には、稜線が二重に見える「ダブリング」の観察が最も有効。
  • 最も多い類似石であるグリーン・ガラスにはダブリングが全く見られない。
  • ダブリングの強さは「複屈折量」で決まり、ペリドットはこの値が非常に大きい。
  • 石を傾けながら観察し、ダブリングが最もはっきり見える角度を探すのがコツ。
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