人気であるが故に類似石もたくさん
緑色系で手頃な価格のペリドットは人気がある宝石のひとつです。人気がある宝石に対して、市場には必ず類似石が出回ってきます。
類似石とは外観が似ているだけで、ペリドットの組成とまったく異なる石のことです。
例えば、グリーン・ガラスが代表的です。ガラスの場合は模造石とも呼ばれています。
この他に合成グリーン・サファイアが挙げられます。
合成石とは、天然石と同一の組成を持つが、人の手によって造られた石のことです。グリーン・サファイアは天然石もあります。ペリドットの合成石について、実験室レベルではペリドットの合成石も造られています。しかし、ペリドットの市場価格は比較的安価ですから、工業的に合成石を造っても採算は合わないと推測されます。ですから、現在、市場にペリドットの合成石は出回っていません。
外観がグリーン系の天然石として、天然グリーン・サファイアの他にグリーン・ジルコン、グリーン・ガーネット、エメラルドなどが挙げられます。
人の目だけでは判別しにくいグリーン・ガラスに要注意
ペリドットの類似石として市場にもっとも流通している石はグリーン・ガラスです。ですから、先ずはペリドットとグリーン・ガラスの鑑別(識別)が重要です。
現在の技術では、ガラスの色を限りなくペリドットに近付けることが可能です。外観の色だけで両者を識別することは困難です。科学的なアプローチが必要です。
ガラスにはダブリングがありません。ですから、ペリドットとグリーン・ガラスの識別にはダブリングが有効です。大きいサイズのペリドットでは肉眼でもダブリングは観察可能ですが、通常は10倍のルーペを使用します。
ダブリングは石の方向にも影響されます。石の方向によって容易に見えたり、方向によって検出が困難なこともあります。
ダブリングの大(二重線がはっきり別れていること)や小(二重線が接近していること)は石自体の複屈折量に依存しています。ほとんどの宝石は複数(二つ、または三つ)の屈折率を持っています。複屈折量とは最大の屈折率と最小の屈折率の差のことです。
複屈折量が大きさがダブリングの見えやすさに影響
この複屈折量が大きいほど、ダブリングははっきりと見えます。ペリドットやグリーン・ガラス、グリーン・サファイアなどの複屈折量の数値を下表に示しています。
外観が似ているグリーン・ガラスの数値は零です。ガラスは複屈折量が無いということです。
ペリドットの類似石として合成グリーン・サファイアが挙げられます。この石の複屈折量は0.008です。この数値ですと、10倍のルーペでダブリングを検出することはなかなか難しいです。かなり大きなサイズであれば、検出可能です。天然グリーン・サファイアも合成石と同じ数値です。
ですから、ペリドットとグリーン・サファイアの識別はダブリングを検出することで可能です。ペリドットのダブリングは二重線がかなり離れており、はっきり判ります。
一方、グリーン・サファイアのダブリングは接近しており、検出は容易でありません。
この他にペリドットの類似石としてグリーン・ジルコン、グリーン・ガーネット、エメラルドがあります。上の表において、これらの石とペリドットを比較すると、数値にかなりの差があります。数値に差があることは、ダブリングを検出することで識別が可能なことを意味しています。
ここで、グリーン・ジルコンについて少し説明を加えます。ジルコンもダブリングを示す宝石として知られています。しかし、グリーン・ジルコンは内部に含まれるウラニウムやトリウムなどの放射性元素によって数千万年~数億年を経るうちに構造が破壊され、複屈折量が大きく低減してしまいました。複屈折量は零から最大で0.018くらいです。
ペリドットの鑑別の要点は外観の色とダブリングです。色である程度、ペリドットと推測し、次にルーペを取り出してダブリングを観察、検出して確定する手順になります。
ダブリングの観察において、石の方向を変えて観察することが極めて重要です。方向によってダブリングの見え方が大きく異なります。ある方向ではダブリングが検出できないこともあります。ある方向では明瞭にダブリングが検出できることもあります。ダブリング、すなわち複屈折量は方向によって大きく異なります。書籍に掲載されている複屈折量の数値は最大値を表しています。