生物から生まれる神秘の輝き
真珠は他の宝石と比べて特異な宝石です。真珠は真珠貝と呼ばれている生物から生まれた宝石です。ダイヤモンドやルビーなどは岩石や鉱物とともに大地から産出します。
さらに、真珠は真珠貝から採取された状態で宝石になります。ダイヤモンドやルビーなどは、大地から産出した状態で使用されることは少なく、ほとんどカット(切断、研磨)されて独特の形状に仕上げられます。
生物の真珠貝から生まれる真珠は、他の宝石と大きな違いがあると予想されます。宝石の本質に迫るには、宝石の成分(宝石を形づくっている元素の割合)を知ることが重要です。真珠の成分はどのようなものでできているのでしょうか? 下の円グラフは真珠がどのようなもので造られているかを示した図です。
炭酸カルシウムは大地からも産出します。方解石(カルサイト)として産出します。
ここで、同じ炭酸カルシウムで構成されている真珠と方解石を比較するとき、外観の美しさに大きな違いがあります。真珠には独特の柔らかな真珠光沢があります。方解石には透明感があっても、真珠光沢はありません。同じ炭酸カルシウムでも両者には違いがあります。それは真珠層にあります。
真珠の輝きの謎を解く
市場に流通している真珠はほとんど養殖真珠です。養殖真珠は一般に内部に核を持っています。アコヤ真珠を例に真珠の断面を観察すると、下図の通りです。アコヤ真珠の現物の写真では判りにくいので模式図で示しています。
右図の同心円状の部分が真珠層です。この真珠層の厚さは、一般に0.5ミリ前後です。真珠層は貝殻と同じ炭酸カルシウムです。しかし、真珠層はアラゴナイトと呼ばれている特別な結晶でできています。アラゴナイト自体は薄い結晶で、その厚さは約0.5μm(ミクロン、1μm=1000分の1ミリ)ほどです。
ですから、真珠層はアラゴナイトの結晶が1000枚ほど積層していることになります。そして、この1枚1枚のアラゴナイトの結晶の間にコンキオリンと呼ばれているタンパク質が存在しています。このコンキオリンの役目は、アラゴナイトの薄い結晶を接着しているものと考えられています。
真珠の断面を観察することで、真珠の本質が見えて来ました。真珠は基本的に核と真珠層で成り立っていることが判りました。
有機物(生物由来)の結晶を含む宝石
右図の三層特性図について、本質特性を見ると、成分は炭酸カルシウムです。
真珠を造る元、生成源は真珠貝で、真珠貝は生物です。
真珠と他の宝石との大きな違いは、この生物と非生物(無機物)との違いにあります。
固有特性において、真珠層の項目があります。この層は生物が造るアラゴナイトの薄い結晶が積層している構造です。この構造によって真珠光沢が生まれます。アラゴナイトの成分は炭酸カルシウムです。ですから、硬度は低いです。塩酸などの薬品に対しては弱いです。
コンキオリンはタンパク質であり、有機物です。真珠は、宝石の中で有機物を含む珍しいものといえます。
表面特性において、真珠光沢の項目があります。私達が真珠を見て、美しいと感じるのはこの真珠光沢によります。また比較的低耐久性という項目があります。真珠は他の宝石(例えば、ダイヤモンド、ルビーなど)に比べて耐久性が低いです。耐久性が低いといっても、日常の使用で直ぐに摩耗するとか、壊れるわけではありません。
日常での使用には丁寧な取り扱い、使用後には汗などを取り除いて保管、という優しさが真珠の美しさを長く保つことにつながります。
表面特性において、指紋模様という項目があります。これは真珠が成長してきた足跡です。成長線といえます。真珠の表面に見られる成長線です。肉眼では見ることができません。10倍のルーペが必要です。少し慣れないと、見ることができないかもしれません。10倍のルーペで観察すると、真珠の表面には指紋のような模様が見られます。
真珠の本質は、生物起源の炭酸カルシウムです。そして真珠の美しさは、炭酸カルシウムがアラゴナイトという薄い結晶になって、約1000層にも積層していることに原因しています。この積層は真珠層と呼ばれています。
この真珠層で光の干渉効果(例えば、シャボン玉の虹色は干渉効果)が生まれ、真珠独特の真珠光沢を示します。
真珠層ではシャボン玉のような明瞭な緑色や青色は出ません。しかし、淡い白っぽい色や淡いピンク色などが見られます。
真珠は、生物である真珠貝(アコヤ貝など)が海水中のカルシウム分を体内に取り込み、アラゴナイトという極めて薄い結晶を造り出すことで、その美しさを発揮しています。