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宝石のサンゴは、サンゴ礁とは少し違います
サンゴ(珊瑚)は英語でコーラル(Coral)と表示されます。宝石の名前は英語名をカタカナで表示することが普通です。サンゴをコーラルと表示している雑誌などもありますが、現況ではサンゴはサンゴと表示することがしっくりします。そこで、ここではサンゴと表示して行きます。
サンゴと聞くと、多くの人は南の海の白いサンゴ礁(さんごしょう)を思い浮かべることと思います。しかし、宝石サンゴはサンゴ礁のような大集団、大きな塊(かたまり)を作りません。
サンゴが宝石として店頭に並ぶには
一般に宝飾店で見かけるサンゴの商品は赤色でオーバル・カボッション(上から見ると楕円で、横から見ると丸い山の形)にカットされています。カットされて店頭に並ぶ前のサンゴはどのような形をしているのでしょうか? またサンゴはどこで採取されているのでしょうか?
店頭に並ぶダイヤモンドやルビーは原石からカットされます。それらの原石の形状は、正八面体(ピラミッドを底辺でふたつ合わせた形)や六角柱状です。一方、サンゴの場合は、原木からカットされてオーバル・カボッションなどの形状に仕上げられます。
サンゴの原木の形状は、多くの宝石の原石形状とは異なり、樹木(ツリー)状をしています。サンゴの原木は比較的暖かい海域の海底から採取されます。



ツリー状の原木はどうやって成長するのか
サンゴはサンゴ虫(コーラル・ポリプ)と呼ばれている生物を介して造られます。サンゴ虫は1.5ミリから2ミリほどの円筒状で、端面に8本の触手があります。
サンゴ虫は海水中のプランクトンを栄養源にして、炭酸カルシウムや発色の基となるカロテノイドを蓄積します。
サンゴの原木をながめると、サンゴ虫はなぜ樹木状に成長して行くのだろうか、と考えさせられます。
木の葉をつけた樹木が枝分かれに成長するのは、日光を効率良く受け取るためと説明されています。
同じくサンゴ虫は海底付近の少ない栄養分を効率良く捕食するために樹木状に成長しているものと推測されます。
右の下段の写真(写真出所:不詳)は黒色サンゴを示しています。黒色サンゴの原木を研磨すると、ツヤのある黒色に仕上がります。


サンゴにも年輪模様があります
サンゴの本体を構成する組成は炭酸カルシウムです。そして炭酸カルシウムはサンゴ虫を介して成長するため、サンゴを細かく観察すると、他の宝石では見られない特異な組織(形状)を形成していることが判ります。観察手段は肉眼でも可能ですが、ルーペ(10倍)を使うと、より明確に把握できます。
サンゴのルース(原木をカットして、オーバル・カボッションなどに仕上げた状態)では、しばしば年輪模様が見られます。樹木ように密に詰まった年輪模様ではありません。
サンゴの年輪模様は非常に粗く、少ない数の輪です。サンゴのルースのすべてに見られるわけではありません。原木から切り出す位置、方向に因ると思われます。
サンゴのルースには年輪模様の他に共通して「白色平行線」模様(形)が見られます。この平行線は肉眼で容易に見えることは少ないです。ルーペが必要です。しかし、ルーペでも簡単に見えるわけではありません。観察に少し工夫が必要です。
ルースを左右に少し動かして、光(窓の光、ペンライトの光)がルースに当たる方向を変えると、見えるようになります。
年輪模様は、赤色サンゴの識別にもなる
赤色サンゴの模造品が市場にたくさん出回っています。赤色のプラスチック、赤色ガラス、赤色陶磁器などです。模造品ではサンゴに見られる「白色平行線」模様を造り出すことは技術的にきわめて困難です。ですから、白色平行線の存在の有無で本物と偽物の識別が可能です。
白色サンゴについても、白色平行線を観察できます。白色地色の中に白色線を探し出すことは簡単ではないですが、観察は可能です。地色の白色と白色平行線の白色は少し色相が違います。ですから、見つけ出すことはできます。
黒色サンゴについて、宝飾宝石業界でこの石もサンゴのひとつに分類されていますが、化学組成の視点で見ると、黒色サンゴは他の色のサンゴと異なります。黒色サンゴの本体はタンパク質(コンキオリン)(有機物)で構成されています。
一方、他の色のサンゴは炭酸カルシウム(無機物)で構成されています。ですから、黒色サンゴをサンゴに入れるべきではない、という意見もあります。
そして、黒色サンゴには、赤色サンゴなどに見られる「白色平行線」模様がありません。この点についても黒色サンゴは他の色のサンゴと異なります。