美しい赤色の輝きで古くから愛され続けるサンゴ。海の恵みから生まれたこの有機宝石は、一般的に知られているサンゴ礁とは全く異なる特別な存在です。
宝石として使われるサンゴは、深い海で長い年月をかけて成長した貴重な海洋生物の産物で、その美しさと希少性から世界中で珍重されています。本記事では、宝石サンゴの基本的な特徴から成長過程、色による分類、そして本物を見分ける識別方法まで、専門的な視点で詳しく解説します。
- 宝石サンゴとサンゴ礁の根本的な違い
- サンゴの色による分類と特徴
- ツリー状に成長するサンゴの生態
- 年輪模様を使った本物の識別方法
Contents
宝石のサンゴとサンゴ礁は全く別物
サンゴ(珊瑚)は英語でコーラル(Coral)と表示されます。宝石の名前は英語名をカタカナで表示することが普通ですが、現在ではサンゴと表記することが一般的です。
多くの人がサンゴと聞いて思い浮かべるのは、南の海に広がる白いサンゴ礁ではないでしょうか。しかし、宝石として扱われるサンゴは、サンゴ礁のような大集団や大きな塊を作ることはありません。宝石サンゴは単独で成長し、その美しい樹木状の形状が特徴的です。
宝石サンゴは深海で育つ希少な生物由来の宝石で、その成長には非常に長い年月が必要です。一方、一般的に知られているサンゴ礁は浅い海で群生し、全く異なる生態を持っています。
宝石サンゴはサンゴ礁とは全く別の生物
樹木状の原木から美しいジュエリーへ
宝飾店で見かけるサンゴ製品の多くは、美しい赤色でオーバル・カボッション(上から見ると楕円で、横から見ると丸い山の形)にカットされています。これらの美しいジュエリーになる前のサンゴは、どのような形をしているのでしょうか。
ダイヤモンドやルビーは結晶の原石からカットされますが、サンゴの場合は「原木」からカットされてオーバル・カボッションなどの形状に仕上げられます。サンゴの原木は他の宝石の原石とは大きく異なり、樹木(ツリー)状の形状をしているのが特徴です。
サンゴは色によって以下のように分類されます:
- 赤色サンゴ:血赤サンゴ、赤色サンゴ、紅色サンゴに細分
- 桃色サンゴ:白色を基調にオレンジ色やピンク色に発色
- 白色サンゴ:褐黄色やアイボリー色を帯びることが多い
- 黒色サンゴ:研磨するとツヤのある黒色に仕上がる
サンゴの原木は色が異なっても、基本的には樹木状の形状を保ちます。これらの原木は比較的暖かい海域の海底から採取され、熟練した職人によって美しいジュエリーへと生まれ変わります。



サンゴは色ごとに特徴が異なる樹木状の原木から作られる
海の栄養を効率的に取り込むツリー構造
サンゴは「サンゴ虫(コーラル・ポリプ)」と呼ばれている生物を介して造られます。サンゴ虫は1.5ミリから2ミリほどの円筒状で、端面に8本の触手があります。
サンゴ虫は海水中のプランクトンを栄養源にして、炭酸カルシウムや発色の基となるカロテノイドを蓄積します。この過程で、美しいサンゴの色合いが生まれるのです。
なぜサンゴ虫は樹木状に成長するのでしょうか。木の葉をつけた樹木が枝分かれして成長するのは、日光を効率良く受け取るためです。同様に、サンゴ虫は海底付近の少ない栄養分を効率良く捕食するために樹木状に成長していると推測されます。
白色サンゴは純粋な白色は少なく、白色を基調にして褐黄色やアイボリー色を帯びているのが特徴です。一方、黒色サンゴの原木を研磨すると、美しいツヤのある黒色に仕上がります。
これらの多様な色合いは、サンゴが成長する海域の環境や、取り込む栄養分の違いによって生まれます。それぞれの色には独特の魅力があり、ジュエリーとしても異なる表情を見せてくれます。


サンゴは栄養を効率的に取り込むため樹木状に成長する
長い年月が刻む美しい年輪模様
サンゴの本体を構成する組成は炭酸カルシウムです。炭酸カルシウムはサンゴ虫を介して成長するため、サンゴを細かく観察すると、他の宝石では見られない特異な組織(形状)を形成していることが分かります。
サンゴのルース(原木をカットして、オーバル・カボッションなどに仕上げた状態)では、しばしば年輪模様が見られます。ただし、樹木のように密に詰まった年輪模様ではありません。サンゴの年輪模様は非常に粗く、少ない数の輪で構成されています。
すべてのサンゴのルースに年輪模様が見られるわけではなく、原木から切り出す位置や方向によって決まります。年輪模様の他に、サンゴのルースには共通して「白色平行線」模様が見られます。
観察項目 | 特徴 | 観察方法 |
---|---|---|
年輪模様 | 粗く、少ない数の輪で構成 | 肉眼またはルーペ(10倍)で観察可能 |
白色平行線 | すべてのサンゴに共通して存在 | ルーペで角度を変えて観察 |
組成 | 炭酸カルシウム(黒色サンゴは除く) | 化学分析にて確認 |
この平行線は肉眼で容易に見えることは少なく、ルーペが必要です。しかし、ルーペでも簡単に見えるわけではありません。ルースを左右に少し動かして、光(窓の光、ペンライトの光)がルースに当たる方向を変えると、見えるようになります。
サンゴには年輪模様と白色平行線という特徴的な模様がある
白色平行線による本物の識別法
現在市場には赤色サンゴの模造品が多数出回っています。赤色のプラスチック、赤色ガラス、赤色陶磁器などがその代表例です。しかし、模造品ではサンゴに見られる「白色平行線」模様を造り出すことは技術的にきわめて困難です。
この特徴を利用すれば、白色平行線の存在の有無で本物と偽物の識別が可能です。白色サンゴについても、白色平行線を観察できます。白色地色の中に白色線を探し出すことは簡単ではありませんが、地色の白色と白色平行線の白色は少し色相が違うため、慣れれば見つけ出すことができます。
ただし、黒色サンゴについては注意が必要です。宝飾宝石業界では黒色サンゴもサンゴの一種に分類されていますが、化学組成の視点で見ると、黒色サンゴは他の色のサンゴと大きく異なります。
サンゴの種類 | 化学組成 | 白色平行線 |
---|---|---|
赤色・桃色・白色サンゴ | 炭酸カルシウム(無機物) | あり |
黒色サンゴ | タンパク質(コンキオリン)(有機物) | なし |
黒色サンゴの本体はタンパク質(コンキオリン)という有機物で構成されており、他の色のサンゴが炭酸カルシウム(無機物)で構成されているのとは根本的に異なります。そのため、黒色サンゴには赤色サンゴなどに見られる「白色平行線」模様がありません。
白色平行線の有無で本物のサンゴを識別できる
まとめ
サンゴは一般的に知られているサンゴ礁とは全く異なる、深海で育つ貴重な宝石です。樹木状の原木から美しいジュエリーへと生まれ変わる過程には、長い年月と自然の神秘が込められています。
赤色、桃色、白色、黒色と多彩な色合いを持つサンゴは、それぞれ異なる魅力を持っています。特に赤色サンゴは古くから最も珍重され、その美しい発色は見る人を魅了し続けています。
サンゴ虫が海の栄養を効率的に取り込むために進化した樹木状の構造は、年輪模様や白色平行線といった独特な特徴を生み出します。これらの特徴は、本物のサンゴを識別する重要な手がかりにもなります。海の恵みから生まれた美しいサンゴジュエリーで、特別な輝きを身に着けてみませんか。
- 宝石サンゴはサンゴ礁とは全く異なる深海の生物
- 樹木状の原木から美しいジュエリーが作られる
- 赤・桃・白・黒の色による分類がある
- 年輪模様と白色平行線が特徴的な模様
- 白色平行線で本物と模造品を識別できる