長石で構成される宝石を消費者はどう見るか

淡い乳白色やほのかな青白色を示すムーンストーンは独特な柔らかな雰囲気を持つ宝石です。この宝石の本体は長石と呼ばれる鉱物で構成されています。
長石で構成されている宝石は、ムーンストーンの他にラブラドライト、サンストーン、アマゾナイトがあります。
先ずムーンストーンの鑑別について、今、宝石業界でときどき話題になることがあります。それは外観がムーンストーンによく似ているラブラドライトとペリステライトです。
この両石(ラブラドライトとペリステライト)とも本体はムーンストーンと同じ長石で構成されていることから、似たような特性値(屈折率、比重など)を示します。
ですから、外観がムーンストーンに似ているラブラドライトやペリステライトも本体は同じ長石であることから、ムーンストーンと表示しても構わないではないか、という意見もあります。

一般の消費者の方にとって見た目はムーンストーンもラブラドライトもペリステライトも同じような宝石に見えます。外観だけで識別することは難しいです。
一方、ムーンストーンもラブラドライトもペリステライトも本体は長石で構成されていると言っても、構成している長石の種類が異なります。ですから、厳密にはこれらの3石はお互いに違う宝石ということになります。
それゆえ、外観がムーンストーンに似ているラブラドライトやペリステライトにムーンストーンと誤解を与えるような「ラブラドライト・ムーンストーン」や「ペリステライト・ムーンストーン」という名称は避けるべきである、ということになります。
ラブラドライトやペリステライトをムーンストーンのように思わせて販促するよりも、やはり原理原則に従って、ムーンストーンとの紐付けを止めて、ラブラドライトはラブラドライト、ペリステライトはペリステライトと表示する方が長い目で見た場合、消費者の賛同を得るものと思われます。

屈折率でムーンストーン他を分類する

ムーンストーンとラブラドライト、ペリステライトの鑑別において、3石の特性値にどのような違いがあるのでしょうか。下の表は屈折率と比重を比較したものです。

宝石を鑑別する場合、先ずは基本的な特性を調べます。
基本となる特性は屈折率と比重です。屈折率の測定には屈折計を使用します。
屈折計は宝石専用の器具が開発されています。

宝石鑑別機関は必ず屈折計を所有しています。小数点第2位までは正確に測ることができます。小数点第3位は目測で読み取ります。
前述の表において、小数点第2位の数値は各石間で重なっていることもあります。しかし、各石間で差異があると判断できます。各石を屈折計で識別することは可能です。
ムーンストーンやラブラドライト、ペリステライトのカット・スタイルはほとんどカボッション・カット(山形状カット)です。ですから、貴金属にセットされている場合、屈折計で測定できる個所は山形部、曲線部となります。
屈折計で曲線部を測定するには少し技能が必要です。屈折計から目を少し離して測定する「ディスタント・ビジョン法」を適用します。曲線部の測定については、小数点第2位までしか読み取れません。
ルース(貴金属にセットされる前のカットされた石)の場合、シングル・カボッション(下側が平滑面)であれば、屈折率の測定は容易です。しかし、ダブル・カボッション(下側も山形面)であれば、上下面とも曲線部となり、少し技能が必要となります。

比重でムーンストーン他を分類する

前述の表において、比重の数値が記載されています。各石間で数値の重なりはありません。比重の数値を正確に測定できれば、各石を識別できます。
しかし、比重の測定はなかなか面倒です。比重の測定には2つの方法があります。ひとつは重液法です。比重が2.9のブロモフォルム液と比重が1.49のモノブロモナフタレン液を準備します。これらの液は市販されていますので入手可能です。
両液を混ぜて、比重が2.60と2.65の液を少量つくります。この新しい液にムーンストーンやラブラドライト、ペリステライトを入れると、液に浮いたり、沈んだりしますので、識別できます。重液法は浮沈法とも呼ばれています。
比重を測定するには、重液法の他に静水法があります。この2つ目の方法はアルキメデスの原理を利用します。水の中にルースのムーンストーンなどを入れて、石の重さの減少分を測定します。比較的精密に測れる天秤が必要です。
比重は密度と同じ数値です。単位が無い(無次元)か、あるかの違いです。密度は石の重さ÷体積で算出できます。
比重を測定する2つの方法(重液法と静水法)ともルースの状態でないと、測定できません。貴金属にセットされている状態では比重を測定することはできません。
次にラブラドライトの鑑別について、一般に鮮やかな青色または青緑色の閃光が見られます。他の宝石では見られない光学的特性ですので、比較的鑑別が容易です。
本体が長石で構成されている宝石は、ムーンストーンやラブラドライトの他にサンストーンやアマゾナイトがあります。これらの鑑別について、サンストーンではキラキラした赤色、橙色のインクルージョン(内包物、異物)が特徴です。アマゾナイトでは緑色と白色の斑(まだら)模様が特徴です。
ムーンストーンの代用品として市場にときどきオパール・ガラスやホワイト・カルセドニーが見られます。オパール・ガラスは乳白色のガラス製模造品です。ホワイト・カルセドニーは白色に染色されたカルセドニーです。これらの石には本物のムーンストーンで見られるモバイル・リフレクション(移動性反射効果、浮動性)という現象が見られません。この現象の有無で鑑別が可能です。

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