今大注目「黒太子のルビー」レッドスピネル

宝石市場では、今、美しい赤色のレッド・スピネルが注目されています。赤色の宝石としてはルビーが広く知られています。
レッド・スピネルは古くからヨーロッパで使われていましたが、ルビーの陰に隠れて、一般の消費者の人達には馴染みが薄いかもしれません。

右の写真はレッド・スピネルの赤色を示しています。(写真出所:GIA)
スピネルの色は豊富です。トルマリンと肩を並べるほどにいろいろな色が産出します。赤色、ピンク色、紫色、青色、緑色、黄色、黒色などです。人気のある色は赤色と青色です。
特に赤色、レッド・スピネルはルビーに似ていますので、古くから使われていました。

レッド・スピネルは宝石史に刻まれています。それは「黒太子(こくたいし)のルビー」として知られています。英国王室の王冠にレッド・スピネルが使われています。

次の写真はその王冠です。写真の中央の赤い宝石がレッド・スピネルです。このレッド・スピネルは「黒太子のルビー」と言われていますが、そのルビーが実はレッド・スピネルだったのです。
「黒太子のルビー」に関する概要は以下の通りです。

黒太子とは14世紀後半に活躍したイギリスのエドワード皇太子のことです。戦場で黒い鎧(よろい)を着けていたことから黒太子と呼ばれています。
当時はルビーと信じられていたレッド・スピネルをスペインの王族から譲り受けた、と言われています。
この黒太子のルビーは140カラット(他の資料では170カラットとの記載)という大きいものです。
そして、黒太子のルビーは八面体をした原石の表面のみを研磨した状態で、1個所に小さな孔が開けられていました。この石の産地はタジキスタンと推測されています。
当初、この石は孔に紐などを通し、首から下げて使われていたと思われます。今、この孔には小さなルビーがはめられています。

赤色のルビーと赤色のスピネルはしばしば同じ場所から産出します。ですから、14世紀頃ではスピネルをルビーとみなしていた、と思われます。
ルビーと信じられて来た「黒太子のルビー」がスピネルと判明した経緯は不明ですが、外観の形状が八面体で赤色であるなら、現在の宝石学から導くと、レッド・スピネルに絞ることができます。
14世紀頃において、現在ではレッド・スピネルと判明している石をルビーと称していましたが、当時でもルビーと少し色相が違うことを認識していたようです。
当時、アフガニスタン産のレッド・スピネルをオレンジ味のルビーと認識し、バラス・ルビーと呼んでいました。ルビーと信じていましたが、ルビーが持つ独特の紫色味を帯びた赤色と違うことは見抜いていました。

ルビーとの大きな違い「スピネルはどこから見ても同じ色」

レッド・スピネルは方向を変えて観察しても色は変わりません。しかし、ルビーは方向を変えて観察すると、色が変わります。このルビーの性質は二色性と呼ばれています。
ルビーの方向を変えると、紫赤色と橙赤色の二色が観察できます。一方、スピネルは方向を変えても、ボディ・カラー(本体の色)のままです。
レッド・スピネルの赤色の発色原因は微量に含まれるクロム元素です。クロム元素で発色していることはルビーと同じです。ルビーの赤色も微量に含まれるクロム元素に原因しています。同じクロム元素によって赤色に発色していますが、両者の赤色にわずかな違いがあります。これは本体の結晶構造が両者で異なることに因ると推測されます。
結晶構造が異なると、同じ元素が含まれていても発色がわずかに違う場合やまったく違う色になる場合もあります。例えば、エメラルドの緑色の発色原因は微量に含まれるクロム元素です。クロム元素はスピネルでは赤色になり、ルビーでも赤色に発色させます。
しかし、エメラルドではまったく違う緑色になります。エメラルドの結晶構造がスピネルやルビーと異なるためにクロム元素を含んでも赤色に発色しないで、緑色になると推測されます。

さまざまな色で楽しませてくれる宝石

美しい赤色を示すレッド・スピネルを合成する動きは早くからありました。しかし、レッド・スピネルの合成はルビーと比較して容易ではなかったです。最終的には成功したのですが、広く普及するまでには至りませんでした。ルビーほどの知名度がなかったことで、販売が振るわなかったと思われます。レッド・スピネルはルビーの陰に隠れて、一般の人達にほとんど知られていません。ですから、購入する方が比較的少なかった、と推測されます。
赤色のレッド・スピネルと共に注目されている色は青色です。普通にイメージする青色と違って、鮮やかな青色です。少し紫色味を帯びた濃い青色です。
一般的に見られる青色のブルー・スピネルは鉄元素によって発色しています。しかし、鮮やかな青色のスピネルはコバルト元素に原因しています。自然界でコバルト元素によって発色している宝石は珍しいことです。この石はコバルト・スピネルとも呼ばれています。希少石に挙げられています。産地はアフガニスタン、マダガスカル、スリランカなどです。
スピネルという名前は一般の人達にあまり知られていません。しかし、スピネルは赤色、ピンク色、青色などいろいろな色で産出し、消費者は好みの色を選択できます。そして硬さはトパーズと同程度です。充分な耐久性を持っています。ですから、今後、多くの人達に普及する可能性を持っています。
赤色のレッド・スピネルは古くから宝石として使われていましたが、ルビーに間違われて来た歴史があります。今でも、レッド・スピネルのリングを指にはめていたら、本人以外の多くの人はルビーと思うかもしれません。外観ではレッド・スピネルもルビーも同じ赤色に見えます。しかし、注意深く観察すると、違いに気付くかもしれません。レッド・スピネルは方向を変えても色の変化はありません。ルビーは方向を変えると、紫赤色や橙赤色が見られます。